開業医の年収は病院勤務医の1.7倍は本当か?
厚生労働省は10月30日、医療機関の経営状況などを調べた「医療経済実態調査」の結果を中央社会保険医療協議会(中医協)に報告した。2008年度の医師の年収を見ると、開業医である一般診療所の院長は平均2522万円で、病院勤務医の同1450万円の1・7倍だった。
この結果をもとに、鳩山政権は勤務医対策を重視する姿勢を打ち出しており、10年度の報酬改定では勤務医への配分をさらに強める考えです。
この情報を見る限り、勤務をしているよりも開業したほうが経済的に恵まれる可能性が高いと考えられる方が多いと思います。(診療報酬の改定は考慮に入れていません)
本当にそうなのでしょうか?
いくつかデータによるごまかしがあるように思います。
一つは年収が平均値であるということ。
勤務医の平均年齢と開業医の平均年齢では開業医の方が高いですね。どんな組織の中でも新人より管理職のほうが年収は多いです。若年の医師が多いと想定される勤務医の方が報酬が低くなるのは当然ではないでしょうか。
事実、病院の院長の年収は全体の平均で2639万円で、診療所開業医の2522万円を上回っています。
二つ目は年収と手取額(可処分所得)は違うということ。
勤務医の場合は年収から税金・社会保険料などを引くと可処分所得になりますが、開業医の場合にはそうではないのです。
開業をするときに、自己資金のみで開業できるケースはほとんどありません。
数千万円から1億円を超える資金を借り入れるケースも多くあるのです。
借りたお金は返さなければなりません。
金利は経費になりますが、元金の返済は経費にならないのです。
つまり、開業医は医業経費や税金・社会保険などを差し引いたものから、借入金の元本返済を引いたものが可処分所得になるのです。
その結果、手取り収入でみると勤務医の平均年収を下回ってしまう開業医も数多く出てきでいます。
特に開業して間もない時にはお金が足りず、大変なご苦労をされることもあります。
開業時の借入を返済できた後も、設備投資や運転資金などで追加の借入をしなければならないケースも多いようです。
開業したからといって、必ず成功を収めるわけではありません。
勤務医の時には考えなくてもよかったこと。医業経営(事業計画、マーケティング、マネジメント、資金調達、その他諸々)を行う上で対応しなければならないことは気が遠くなるほど山積しています。
これらのリスクや負担を考えた上で、本当に開業医の年収が勤務医より1.7倍であると言う事ができるのでしょうか?
開業を検討される先生は、慎重に考えられることをおすすめすると共に、厚生労働省、中医共の方々には現状を冷静に見た上で政策の判断をお願いしたいと思います。