ドラマ「病院の治しかた」に学ぶ、クリニック経営の要点 その3
ドクター総合支援センターの近藤隆二です。
今回はドラマ「病院の治しかた」第3、4回のポイントをお伝えします。
ドラマではありますが、見ているとこれまでクライアントで経験した様々なケースとオーバーラップして胃が痛くなるような展開が続きます。
このドラマにはクリニック経営に欠かせない考え方や行動がちりばめられていますので、ご参考にしていただけましたら幸いです。
有原総合病院では看護師の大量退職があり、診療が継続出来なくなるような危機を迎えています。
そこで、新たな看護師を採用するための活動を始めますが、なかなかうまくいきません。
有原はその原因は自院が看護師から選ばれるような特色がないためだと考え、「24時間365日救急」を病院の柱として打ち出します。
それが功してか、新たな看護師を無事採用することができたのですが、それでうまくいくほど病院の現場は甘くはありません。
現場の負担が大きくなり、小児科の医師が不在になる緊急事態を迎えることになります。
その結果、産科の廃止を検討せざるをえない状況になってしまいました。
そればかりか、24時間救急に対応するため、現場の医師からの不満が爆発寸前になり、24時間救急をやめてはどうかとの意見も出始める始末です。
大変な状況ですが、有原はこのピンチをチャンスに変えようとします。
まず産科を一時縮小して、余剰スタッフを専門の産院に修行に出し(給与は自院持ち)、ノウハウを学ばせます。
自院の産科は細やかな心遣いが足りていなかったことに気づき、学んだノウハウをもとに産科を立て直そうとしたのです。
その結果、産科のリニューアルが成功し、患者さんの満足を得られるようになっていきます。
有原のこの言葉が印象的でした。
「赤ちゃんは命の塊、未来そのもの。産科は病院のパワースポットだ。」
また、24時間救急が病院の柱であるという方針は変えず、システムの改善に取り組みます。
救急専門医を採用して体制を欧米のER型にしようというのです。
全ての救急診療を救急専門医が診る、3交代制、それぞれの科の専門医は必要に応じてサポートする、協力してくれる医師にはインセンティヴをつける、などのアイデアを次々に出していきます。
これらの対策は良いことのように見えますが、問題は利益を圧迫し、キャッシュフローが不足する危険性があるということです。
もし、私自身がこのような状況に直面していたらまず大反対をしたと思います。
当然、内部からも銀行からも反対の意見が出ますが、有原は事業のシミュレーションを繰り返し、期限を区切って赤字脱却を約束することで対策の実現に邁進していきます。
この流れの中で感心したことが幾つかあります。
【経営の要点 その1】
患者さんに選ばれることばかりではなく、スタッフからも選ばれる病院にしようと考え行動する
患者さんから選ばれなければ病院の経営は成り立ちません。
しかし、スタッフに対してそのような意識を持っている病院はまだまだ少ないのではないでしょうか。
人手不足の現在、自院の特色、自院に来ればスタッフにどのようなメリットがあるのかを、勤務条件のみではなく、やりがいや成長できる環境、働きやすさなどをわかりやすく募集時に伝えることが大切です。
【経営の要点 その2】
患者さんのニーズをよく把握し、リアルなシミュレーションを繰り返し対策を考える
有原は日々診療の現場で産科や救急の患者さんのニーズを探ろうとしています。
そして、様々なリサーチや事業シミュレーションをして産科の継続や24時間救急の拡充の意思決定をしていきます。
暴走特急と言われながら、実は緻密に考えた後、自分の経営者としての感覚を研ぎ澄まし責任を持って判断をしているのです。
ドラマではこのあたりのことは詳しく描かれていませんが、モデルとなった相澤病院、相澤先生の個別計画を見るとこのことがよくわかります。
*医療マーケティングに基づく個別計画 1
1.これから提供する医療のコンセプト(価値)は何か
理念に合致しているか、真に患者のためになるか、病院の特色となれるものか、環境が変化しても必要とされ続けるか、
2.これから提供する医療の価値は誰に向けてのものか
どのような患者が対象か、その医療機能・資源を効率的・生産的に使用できる患者とは、その患者は自院の医療機能にジャストフィットするか、今後の当該患者をどう見込むか、これにより地域住民との関係は向上するか、
3.どういう仕組みで、その価値を極大化するのか
患者は何に誘引されて受診するのか、連携を強化すべき相手は、どういう広報が効果的か、ロイヤリティの増強につながるか、
*医療マーケティングに基づく個別計画 2
1.その医療の需要規模はどれ位あるのか
診療圏の広がりは、集患力強化は可能か、競合する医療機関は、既存医療への相乗効果はあるか、
2.その医療のコスト構造はどうなっており、それは適切か
イニシャルコストにいくら必要か、ランニングコストはどうか、人件費率、材料比率、減価償却費率など費の影響は、機器稼働率はどうか、損益分岐点などへの考慮、
3.病床利用率や平均在院日数への影響は
4.収支比率の工場への見直し、黒字化への見通し
(「患者に医療を取り戻せ」 塚本健三著 より引用)
【経営の要点 その3】
自分の過ちを素直に受け入れ、反省し、行動を変える
小児科の医師が退職した時に、有原はこのように反省します。
自分はスタッフに向き合っていなかった。これからは忙しくとも真剣にスタッフの話を聴こう。
「僕の責任です、話し合う時間を取らなかった。後回しにした。僕が追い詰めたんです。私の配慮が足りなかった。」
「野林先生のことがあってようやく気付いたんです。僕は患者さんに選ばれる病院になることばかり考えていて、現場で働く人たちの方を向いていなかった。
良い病院とは、まずそこで働く医者や看護師たちに選ばれるところでなければならないのに。」
【経営の要点 その4】
目の前のことだけではなく、将来のことを考えて行動し続ける
有原のこの言葉は、すぐに成果が出るこだけではなく、長期的な視野に立って行動を積み重ねることの大切さを教えてくれます。
「今日種を蒔いても明日花は咲くわけではありません。でも、種を蒔かなければいつまでたっても花は咲かないんです。
今なんですよ。今何をするかで病院の未来が決まるんです。」
しかし、まだまだ課題は山積みで、内部の根強い反対も続いています。
今後の展開が楽しみです。
今回の記事で参考にさせていただいた書籍は以下でご確認いただけます。
「患者に医療を取り戻せ」塚本健三著
広報誌・刊行物 | 相澤病院 | 長野県松本市 | 社会医療法人財団 慈泉会
相澤病院 創業110周年記念誌
~相澤病院の軌跡と展望~ 慈泉会 年報 広報誌「あいあい」 1992年に創刊。当院の取り組みや地域医療情報など様々な情報を発信してい…
今回の内容に関連する動画を以下で御覧ください。
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